岩澤理論のところで述べたように、円分体の岩澤理論の中で岩澤不変量λ+はいまもってよく分かってないもののひとつなのです。特に、実円分体のZp-拡大は円分Zp-拡大しかないことがわかっており、この不変量λ+はより興味深くなるわけです。
ここで、次の大胆な予想−Greenberg予想−が登場するわけです。
全ての総実代数体、全ての素数pについて、λ=μ=0。
もしこうだと楽なはなしです。私もはじめ聞いたときは、ずいぶん虫のいい予想だなあと思ったものです。
この予想は最初1973年の岩澤先生の論文で構成されたpairingとの関係で問題にされ、更にGreenberg氏(岩澤先生のお弟子さん)やCandiotti氏らによりいくつかの十分条件が与えられ、自明でない成立例が与えられました。その後、日本において福田氏(日本大)小松氏(早稲田大学)田谷氏(東北大学)らにより、精力的に調べられてきました。
私がこの問題に触れたのは学部4年生の時で、岩澤先生の1959年の論文を読んでいたときのことです。無謀にも土曜のセミナーのあと、喫茶店で岩澤先生に 「どうして有理数体の場合,全ての素数についてλ=μ=ν=0なのでしょうか」と尋ねてしまったのです。(なお、先生には丁寧に答えて下さいました。(汗))そして岩澤先生の論文を読み終わった後、半年かけてGreenberg自身の論文を読み、修士論文では次の3つの結果を得ました。
1 pが分解する場合のGreenbergの必要十分条件を少しrefine。もともとは、反例を構成したいと考えていたのですが、調べれば調べるほどその困難さが分かっていきます。しかし一方で予想が提出された当時に不明だと提出された例、(p=3,Q(/254),Q(/473))は予想が正しいのか正しくないのか不明のままでした。福田氏はなんと有理数体上162次拡大体の単数を用いて 調べていました。困難性は高次の単数を扱うことにありました。次数が高くなるとそれに比例して単数の生成元の個数も増えていきます。
私は修士論文2の一般化をしてつづいてこの予想を調べていたのですが、博士2年の時、市村氏(横浜市立大)が特別な場合に円単数とp進L関数の零点、更に素数たちを用いた予想の判定条件が得られたということを個人的に話して下さいました。その方法はまさしく計算に適しており、PCを用いた計算でものの見事に上の2例の予想成立をついに確かめることができたのです。更にこの方法は一般化できることが分かり、実2次体,p=3,5,7で判別式の小さいところの予想成立が確かめられました。すなわち、ある程度小さな判別式、素数にたいして、予想を計算で確かめることが可能になったのです。もう少し詳しく言うと、計算によって岩澤不変量のνが上から評価できるのです。
しかし、この先は見えません。解ければ非常に強い本質的な結果であり、今のところ困難に思えます。いつか、だれかが、解決出来るのでしょうか。フェルマーの最終定理のように・・・。