次の問題になるとなかなか一筋縄にはいきません。
「pを素数とするとき、x2+5y2=p となる自然数x,y はあるか?」
まずはp=2 または 5に対しては、いずれも解がないことはすぐ分かります。
次に、それ以外の素数、すなわち2と5と素な素数pを考えます。 w=√-5 とおくと、 x2+5y2=(x+w y)(x-w y) と因数分解できます
まず、解が存在するとしてその解をx=a,y=bとし、 π=a+bw、π'=a-bwとおきます。 ここでππ'がpで1回しか割れないのでa,bはpと素であることに注意します。 式a2+5b2=p をmod p(pで割った余りの数)で眺めてみましょう。するとa2+5b2≡0 (mod p)。 bb'≡1 (mod p)となるb'の2乗を両辺にかけると (ab')2+5≡0 (mod p)となり、 2乗すると-5とmod pで合同になる数が存在しなければなりません。 ここでGaussが整数論の基本定理と名づけ、6つの趣の異なる証明を与えた 平方剰余の相互法則によって、 p は 20で割ると余りが1, 3, 7, 9となる素数であることが 必要十分条件となることがわかるのです! この法則は荒っぽく言うと素数q が mod pで2乗数であるかどうかは、 p が mod qで2乗数であるかどうかと密接なかかわりがあるというものです。 これは素数間の不思議な関係ともとれるし、 類体論における素イデアルの分解法則の萌芽とも理解できます。
しかし、まだ話は終わっていません。
さきほどのようにすすめると
π=a+bwをpとr-wの公約数、π'=a-bwとおく
と、a,bが解となりました。しかし今度はそうはいきません。
なぜかというとそういう公約数があるとは必ずしもいえないのです。
たとえば、p=3として、1-w と3の公約数を探したいのですが、
みつかりません。これは困ったことです。
いわゆるふつうの整数とは違った現象がおきてしまったのです。
この現象をイデアルという概念でとらえます。
イデアルというのは、この場合整数環O={a+bw| a,b整数}の
部分集合で和、Oの元の倍数で閉じているもの(部分O-加群のこと)です。
すると驚くべきことに、イデアルA=<a,b,c,..>とイデアルB=<d,e,f,.. >の掛け算
AB=<ad,ae,af,...,bd,be,bf,...,cd,ce,cf,...>とすると、
一般に素因数分解はできないけれども素イデアル分解は
一意的に可能なのです!
すなわちどんなイデアルAも素イデアルP,Q,R,S....によって
A=PeQfRgSh...
と順番を度外視して一意的に書けてしまうというのです。
(Pが素イデアルとは、αγがPに属しているならば、
必ずαまたはγのどちらかがPに属するイデアルのこと)
問題は素イデアルがひとつの元で生成されないということです。
そこで、ひとつの元だけで生成されるイデアルを単項イデアルと呼び、
イデアルA 、B が A〜Bとは、ある単項イデアル(α)(β)があって、
A(α)=B(β)ということにしてイデアル全体をこの等式で割ってしまいます。
これが、「イデアル類群」と呼ばれるOにとって
重要な群です。
これまで出てきた、普通の整数、Gauss複素整数の場合、
イデアル類群は位数1 すなわち、すべてが単項イデアルだったわけなのです。
ところが、今現れたO={a+bw| a,b整数}のイデアル類群の位数は2であり
複雑になっているのです。実は、p が20で割って余りが3,7の場合、
(p,r-w)は決して単項イデアルにはならず、さらに余りが1,9の場合は
単項イデアルになることが分かります。
ゆえに解答は、