以下は、少し専門家向けのお話になっています。
代数体のところで説明したように、イデアル類群というのは重要な概念であり、また興味深い対象です。実際、類体論によって代数体の不分岐アーベル拡大とイデアル類群は対応しており、幾何的な観点からも理解できます。1959年、岩澤健吉氏は代数体のZp-拡大という概念を前面に出し、そこでのイデアル類群の振る舞いに関して興味深い定理を示しました。なお、Zp-拡大Kというのはk上の無限次元の拡大で、任意の自然数nに対してpn次の巡回拡大となるような中間体knがただ一つ存在しています。興味深い定理とは、knのイデアル類群の位数のpの部分が規則的に増えているということです。詳しく言うと、 enをknのイデアル類群の位数のp部分の指数とすると
と表されるような不変量λ, μ, νが存在するというものです。これらの不変量はK/kというZp-拡大に対して定まる不変量で、λは線形的増加、μは指数的増加、νは補正項をそれぞれ表しているわけです。
この定理を証明するにあたってもっとも重要なことは、Kのイデアル類群に大きなガロア群Gal(K/k)が作用しているということです。この作用の入り方はいろいろあるけれども基本的に位数の増え方は有限の差であり、上のようにならざるを得ないということが加群の議論から分かるのです。
さて、独立なZp-拡大はkの虚素点の個数をrとすると少なくともr+1個あります。どのkにも少なくとも1個のZp-拡大があるわけで、それは円分Zp-拡大k∞と呼ばれているものなのです。これはkにe2πi/pnをすべてのnについて付け加えた体の部分体で、基本的で重要な拡大です。なお、e2πi/nが複素平面で半径1の円のn等分点にあたることから「円分」といいます。
なお、kの独立なZp-拡大の個数はr+1個あると予想され、 「単数群を準p−局所単数群に埋め込んだときの閉包のZpランクがもとの単数群のZランクと同じであろう」というLeopoldt予想と同値です。 kが有理数体上のアーベル拡大のときは予想が正しいことがAx, Brumer氏によって 示されています。
では次に有理数体上のアーベル拡大、すなわち円分体を考えましょう。実はこのとき、全ての体、全ての素数pに対して、円分Zp-拡大k∞のμは0であることがFerrero氏-Washington氏らによって1983年に示されています。これは、円分Zp-拡大が性質のいいZp-拡大であるということであり、一般にも円分Zp-拡大のμは0であろうと予想されています。(μが大きくなるZp-拡大の例は、岩澤氏により与えられています。)
一方、λはどうなるでしょうか。まず、kの最大実部分体k+のλ不変量をλ+と書いてλ−=λ−λ+という量を考えます。この量は解析的類数公式により、p進L関数というものを計算する事により求まります。それでは、λ+はどうなのでしょうか?これが分かれば、λが求まります。
しかし、この問題はかなり難しい問題で、今のところよく分かっていません。 そのようなわけで、私はこの問題=総実代数体のGreenberg予想に興味を持っています。なお、λはイデアル類群へのある作用の特性多項式の次数として理解されます。特性多項式がp進L関数に対応するというのが岩澤主予想であり、アーベル体の場合は1983年Mazur氏-Wiles氏により解決され、より一般的なバージョンも数年後Wiles氏によって解決されました。